介護を知る−1
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DAY-1
1.介護が必要な高齢者とは?
2.認知症って?
3.高齢者の権利擁護とは?
4.虐待・拘束について
5.医療行為について
1.介護が必要な高齢者とは?
介護を必要とされる方たちとは、わたしたちが普通だと思う当たり前の生活をすることができなくなっている方たちです。
身体の働きが弱くなったり、病気のため寝たきりになったり、言葉や物、場所、出来事をどんどん忘れてしまう認知症という病気になることで生活に支障がある方に対して、自分の住み慣れた場所で暮らし続けるお手伝いや支援をしていくことが、わたしたちの役割です。
高齢者の方と接していると同じことを何度も繰り返し尋ねられたり、不潔行為があったり、少し手を引いただけだでも痣(あざ)ができてしまったり、皮が剥けてしまう場合があります。介護が必要な高齢者の方が安心・安全で明るく元気に暮らすためには、わたしたち介助者が様々な知識を得て、その方にあった適切なケア(介護)を行ない、支援しなければなりません。
■『介護』に必要な心くばり
どんなに素晴しい介護技術を持っていても、その手から温もりが伝わらなければ、本当によい介護とは呼べません。多少ぎこちない手つきでも、利用者様に対する態度や表情、言葉に心がこもっていれば指先からその思いが伝わり、温もりのある介護を感じとっていただけるものです。利用者様が最後を迎えられた時に「いい人生が送れたな」と思っていただけるような介護を目指します。
「自分の力で食事ができた」「座ってお茶を飲むことができた」「一人で歩いて排泄に行くことができた」など、高齢者の方はごく当たり前の日常生活に喜びを感じます。日々の生活を楽しめるようにすることが、介助者にとっての重要な役割です。
わたしたちは利用者様の生活をより良くするために必要とされる素晴しい仕事のスタートラインに立ちました。そのことを誇りに思い、行動できる人材を目指しましょう!
■介護の心『きめこまやか法』
利用者様を大切に思う心を言葉にして伝え、行動に移していくための『きめこまやか法』をぜひ実践してください。
き:気配り
相手の身になり、常に寄り添う気持ちを持ちましょう。
め:目配り
常に利用者様の状態をよく観察しましょう。
こ:心配り
利用者様の心の理解や共感を持ちましょう。
ま:まっすぐな心
常に新しいことを吸収し、素直な心で行動しましょう。
や:優しい声掛け
相手の立場に立った声掛けを意識しましょう。
か:変わらない心=平常心
生命をお預かりしていることを常に意識しましょう。
2.認知症って?
認知症は、脳の病的な変化により、認知機能の低下が起き、生活に支障が見られる状態のことです。認知症の原因疾患は70以上あると言われ、主なものを以下に示します。
●アルツハイマー型認知症(記憶力、時間や季節感覚の障害など)
●前頭側頭型認知症(反社会的行動や食行動の異常など)
●レビー小体型認知症(小刻みな歩行、幻視など)
●脳血管性認知症(記憶や言語、判断力の障害など)
上記のとおり、病気ごとにそれぞれ特徴的な症状があります。
認知症には『中核症状』と『行動・心理症状』があります。これらの症状に対しては、生活の工夫、環境の整備、適切な支援が大切です。『中核症状』とは、脳細胞が壊れることによって直接起こる症状です。『行動・心理症状』とは、本人の性格や人間関係、生活環境など様々な要因により、日常生活への適応を困難にする症状です。
【行動・心理症状】
●徘徊
●暴力
●暴言
●不安
●抑うつ
●幻覚妄想
●引きこもり
●異食など
【中核症状】
●記憶障害
●見当識障害
●判断力障害
●実行機能障害
●性格変化
●失認、失行、失語など
■認知症についてよくある誤解は「何もわからなくなる?」
認知症で認知力や記憶力が衰えていっても、人としての『感情』は最後まで残ります。ただし、理性でコントロールできなくなることから、感情の部分がより強く出てしまうことが多いのです。接する際の表情や声のトーンなどのささやかなことで安心したり、不安になったり、時には憤慨したりすることもあります。そのことを、よく心得て対応しましょう。
■『どうせわからない』という態度は絶対にNG
認知症の方のケアをする上で絶対にやってはいけないことは「どうせわからないから」と、ぞんざいに対応することです。認知症の方の心には『嫌な思い』だけが積み重なり、スタッフとの信頼関係も失われてしまいます。また、言葉遣いが丁寧でも雰囲気が荒っぽかったり、態度が冷たかったりすると認知症の方は敏感に感じ取ってしまいます。丁寧な言葉遣いを心がけるだけではなく、笑顔と温かい態度で接しましょう。
■誘導の言葉は短く、的確に
認知症になると複雑な手順やまわりくどい表現はかえってわかりにくくなります。丁寧に接することと回りくどいことは違います。敬意を払いつつ、動作の誘導は短く、的確に声を掛けましょう。
【NG】
「〇〇さん、準備が出来ましたら、食事に行きましょう。」
【OK】
「〇〇さん、お食事の準備が出来ましたので、食堂へどうぞ。」
■先のことまで言わずに、順序立てて伝えること
認知症で「○○が出来なくなった」ということをよく聞きますが、本当にそのすべてが出来なくなったのかは検討の余地があります。たとえば、「着替えが出来なくなった」と言っても、手順が混乱しているだけで順序を一つずつよく説明すればできる場合が多いのです。この場合、あまり先のことまで言わず、順を追って一つずつ伝えていくのがコツです。
【脱衣の例】
①「ボタンを外してください」
②「こちらの腕を抜きましょう」
③「反対側も抜きましょう」
④「ズボンをお尻まで下ろして座りましょう」
⑤「そのまま足首まで下ろしましょう」
⑥「足をひとつずつ抜きましょう」
■前に聞いた話でも聞いてあげましょう
認知症になると、同じ話を繰り返すことが多くなります。そんな時も、時間が許す限り聞いてあげましょう。時間がない時はその旨を伝えて「次の機会に」という接し方をしましょう。「何度も聞きましたよ」や「さっきも同じ話をしていましたよ」という声掛けは相手のプライドを傷つけ、嫌な感情だけが残ることになってしまいます。
■『説得』するより『納得』を引き出す声掛けを
理論的に説明してわかってもらうのが『説得』ですが、それは認知症の方には通じにくいものです。それより相手の『納得』を引き出せるような声掛けを行ないましょう。心に響き、気持ちに訴える声掛けを心がけるとよいでしょう。
【NG】
「このお食事は栄養バランスを考えて作っています。しっかり栄養を取っていただきたいので召し上がってください。」
【OK】
「心を込めて〇〇さんのために作りましたので召し上がっていただけると嬉しいです。一口だけでも、いかがですか?」
■暴力行為があるときはその場から離す
認知症と一口に言っても、個人や状況によって症状の現れ方は様々です。なかには大勢が集まっている場所で急に暴力的になったり、暴言を発したりすることがあります。そういう場合はその場でやめさせるのではなく、一端その場から離して落ち着いてもらう方がいいでしょう。
■理解不足が原因で暴力を振るうことも・・・
認知症の方の言動が暴力的になると、医療の扱いとなり精神科薬で対応されることもあります。そういう対応が必要な場合もありますが、暴言や暴力を振るった原因をしっかりと探ると周囲やスタッフの理解不足による場合も少なくありません。現状への不満や傷ついた気持ちをうまく表現できなくなるのが認知症という病気です。その背景を理解し、対応することで症状が落ち着く場合もあるのです。
■『安心』をもたらす声掛けを
施設では何度もナースコールなどで呼ばれることから、スタッフに対しての嫌がらせではないかと感じてしまう人もいるようですが、『不安』から来る行動である場合が多いのです。前もって安心感を与えるような声掛けをしておくと、不安が軽減され何度も呼ぶことが少なくなる場合もあります。
【たとえば・・・】
「今日はわたしが担当ですので、よろしくお願いします。何かあったらいつでも呼んでくださいね。」
「必要なときは、すぐ駆けつけますからね。」
「呼ばれたら来ることが出来るように控えていますから、安心してお休みくださいね。」
3.高齢者権利擁護とは
■高齢者の権利の侵害
日本国憲法は『国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない』と規定しています。基本的人権は生まれながらにして持っているものとして、すべての国民に平等に保障されています。また憲法は「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追 求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とも規定しています。これは個人の幸福追求権を保障したものです。
しかし、高齢になれば一人暮らしで生活困難、判断力の低下、認知症などといった理由により、人権や権利が侵害されやすい状況になります。特に判断力の低下した高齢者は、虐待や悪質商法の被害などの権利侵害にあいやすいという特性があります。
■高齢者の権利の擁護
このように高齢者に降りそそいでくる権利侵害から、『生命』をはじめ、その人の様々な権利、『自由権』『社会権』『参政権』『財産権』『幸福追求権』などを守り、高齢者の尊厳を保持し、その人らしく暮らし続けていくことができるようにすることが権利擁護です。具体的には、高齢者の生活・権利をその人の立場に立って代弁し、あるいは本人が自ら自分の意思を主張し、権利行使ができるように支援することです。
認知症があるとか、生活を家族や周囲の人々に依存しているといった場合は、自身に人権の侵害や虐待、不適切なケアがあっても、「助けてほしい」「止めて ほしい」と主張できにくいものです。こういった負の状況を解消することで高齢者の権利を擁護することが大切です。
■後見人制度
権利擁護としてよく耳にするのが『成年後見人制度』です。
『成年後見制度』とは、認知症高齢者、知的・精神障害者などのうち、判断能力が十分でない人たちを援助する『成年後見人』を、家庭裁判所などに選んでもらう制度です。『成年後見人』の仕事は、不動産や預貯金等の財産の管理や各種契約の手続などを本人に代わって行うことです。日用品の買い物や介護などは含まれません。
『成年後見制度』には、法定後見と任意後見があります。法定後見とは、既に判断能力が十分でない人が対象で、家庭裁判所が後見人を選びます。本人の状況により後見・保佐・補助の3種類に分かれ、軽度の認知症などでも利用しやすい仕組みになっています。一方、任意後見は、本人がまだ判断能力があるうちに将来に備えて自分で後見人を選び、財産管理などの代理権を与える契約を結んでおく制度です。
『成年後見制度』を利用する場合、家庭裁判所に申立てを行うことが必要で申立てができる人は、本人・配偶者・4親等内の親族などに限られています。
4.虐待・拘束について
■高齢者虐待の主な5つの類型
⑴身体的虐待
高齢者の身体に外傷が生じる、またはその恐れがある暴力を加える。
●たたく(平手打ちをする)。
●つねる、殴る、蹴る。
●無理矢理食事を口に入れる。
●火傷・打撲させる。
●ベッドに縛りつける。
●意図的に薬を過剰に飲ませる。
⑵介護・世話の放棄、放任
高齢者を衰弱させるような減食、長時間放置、養護を著しく怠る。
●入浴させないで異臭がする。
●水分や食事を十分に与えない。
●室内にごみを放置する。
●本人が必要とする介護や医療を理由無く制限し使わせない。
●虐待の行為を放置、黙認する。
⑶心理的虐待
高齢者に対する著しい暴言、拒絶的な対応。その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行なう。
●排泄の失敗を笑ったり、人前で話すことで高齢者に恥をかかせる。
●怒鳴る、ののしる、悪口をいう。
●侮辱をこめて子供のように扱う。
●話しかけられているのに意図的に無視する。
⑷性的虐待
高齢者にわいせつな行為をすること、または高齢者同士を通してわいせつな行為をさせること。
●本人との合意がないあらゆる形態の性的な行為や強要。
●排泄の失敗に対して懲罰的に下半身を裸にして放置すること。
●キス・精器への接触、セックスの強要。
⑸経済的虐待
高齢者の財産を不当に処分したり、高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
●勝手に財産や金銭を無断で使う。
●本人の希望する金銭の使用を理由無く制限する。
●日常生活に必要なお金を渡さない。
●自宅を売却、本人の意思・利益に反し使用する。
■虐待しているという『自覚』は問わない
介護者の自覚の有無に関わらず、その行為の結果として利用者様本人の権利が侵害される状態となっていれば、それは虐待とみなします。
■高齢者本人の『自覚』は問わない
高齢者本人が虐待を受けていると自覚しているかどうかは問題になりません。本人に自覚がなくても、客観的に見て権利が侵害されていると判断される場合には、高齢者虐待として必要な介入を行なうなど支援の対象となると考えましょう。少しでも不安に思うことや感じることがあった際は、必ず上長、またはコンプライアンス室に相談をしてください。決して、勝手な判断や憶測で対応したり誰にでも話したりすることはやめましょう。
■身体拘束について
会社全体としては身体拘束は絶対に行なわないというルールです。拘束を行なわないためにわたしたちができることを最大限に考え、基本のケアを徹底することでより良いケアに結びつけていくことを目標にしています。
【厚生労働省が身体拘束として扱う事例】
●歩き回らないようにベッドや車椅子に胴や手足を紐などで縛りつける。歩けなくする。
●ベッドから転落しないよう紐などで縛り、動けなくする。
●ベッドの周囲を柵で囲み降りられないようにする。
●点滴や鼻・お腹などにつける栄養補給のチューブや治療のための器材を自分で抜かないように、手足を縛ったりミトンや手袋等を使用する。
●排泄を触ったり、不潔行為、掻きむしりを行なわせないために手袋やミトンを使用する。
●車椅子からのずり落ちや立ち上がりをしないように専用ベルトで固定したり、胴にぴったりとテーブルをつけて立ち上がれないようにしてしまう。
●立ち上がる能力がある人に対して、座面を大きく傾かせ椅子に座らせるなどをして立ちあがれないないようにする。
●服を脱いでしまったり、オムツをはずしたりしてしまう人に拘束衣(つなぎのような介護衣)などの自分で脱げないような特殊な服を着させる。
●興奮や不穏状態を落ち着かせるために、精神に作用する薬(向精神薬)を過剰に使って動けないようにしてしまう。
●鍵をかけるなどして自分では空けられないような部屋に閉じ込める。
身体拘束は行なわれないのが原則ですが、本当にやむを得ない場合の定義として厚生労働省より次の基準が設けられています。
●切迫性(生命の危険が迫る、命を落としかねない自体)
●非代替性(色々なことを全て考えケアをしたが、結果他に代替するものが無い感じ)
●一時性(拘束以外に取るべき手段がなく、生命の危機もありうる緊急事態であり拘束の期間も一時的なものである)
以上が厚労省で定められている基準ですが、会社としては拘束をしないルールを遵守しています。原因やその背景、人間関係や置かれた環境などすべての因果関係を追及し、ご本人が最大限気持ちよく過ごせることをご家族・CM・主治医と常に連携、共有しながらケアに努めましょう。
■拘束しないための5つの基本ケア
⑴起きる
寝たきりにさせない生活のリズムを整えるよう働きかけましょう。
⑵食べる
人は食べることからすべてが始まります。生きる意欲をわかせましょう。
⑶排泄する
継続的にオムツを使用しないため、日中は自分で排泄へ向かうような取り組みを。
⑷清潔にする
常に清潔にして病気の予防や不快感、不眠などを解消し穏やかな心にしましょう。
⑸活動する
身体を動かすことで他社とのコミュニケーションを図り、上手く伝えられない気持ちやサインを受け止め、情緒の安定と孤独感の解消・緩和を目指しましょう。
ケアのあり方に正解・不正解とは一概には言えません。一人ひとりに向き合いそれぞれに一番合った、その時々の適切なケアをチームで一丸となって行ない、ケアの難しい方に対する対応をチーム全員で共有していきましょう。
5.医療行為について
■ケアスタッフが行える行為
爪切り/耳掃除/口腔内の清拭/体温測定/自動血圧計による血圧測定/軽い傷の手当/パルスオキシメータ装着(新生児以外で入院不要な者)/ストーマ装具のパウチにたまった排泄物を捨てる/自己導尿のカテーテルの準備・体型保持/浣腸など
【医薬品使用を伴う介助に対しての前提条件※を満たした場合に行える行為】
軟膏の塗布/湿布の貼り付け/目薬の点眼/内服薬の内服/坐薬の挿入/鼻腔粘膜への薬剤噴射 ※
※前提条件
①対象者が入院治療の必要がなく容体が安定していること。
②薬の使用に関して医師や看護職員による連続的な経過観察が必要でないこと。
③介助する医薬品の使用方法そのものについて専門的配慮が必要でないこと。
これらには、一般家庭で普通に行われている行為も含まれますが、それを仕事として第三者に行う場合はさらなる安全性が求められます。
■ケアスタッフが行えない行為
褥瘡(床ずれ)などの処置/たんの吸引/点滴/摘便(便を指でかきだすこと)/爪白癬(爪の水虫)などにかかっている人の爪切り/経管栄養の注入など
ケアスタッフは、医療の知識をほとんど求められていません。ですからケアスタッフは原則的に医療行為を行うことは出来ないと覚えておきましょう。
■各自が役割をしっかり理解しましょう
ケアスタッフが医師や看護師の指示のもとで行う行為でも、ときには『医療行為に該当するかどうか』がはっきりしないまま、指示が出される場合があります。こうなると、責任者やCMが気づかないところで、ケアスタッフが日常的に医療行為をしてしまうという事態になりかねません。 これを防ぐには、実際に介護をするスタッフはもちろん、医師・看護師なども含めたそれぞれの専門職が正しく制度と役割を理解することが大切です。その上で、情報を共有し、チームとして連携して動くことが必要になります。医師や看護師が不在の施設でケアプランと異なる行為が必要な場合は、まずCMへ相談し、指示を仰ぎましょう。
■現場で流されない知識を持ちましょう
利用者様の緊急事態であったり、命令されて気づかないうちに医療行為をしてしまうということは、介護の現場ではありがちなミスです。『してもいい行為』『してはいけない行為』をしっかり頭に入れておくこと。そして、医療行為であるのにも関わらず、指示なく自ら率先して行うことは絶対に避けましょう。これくらいならと思っていても、万一事故があったときには取り返しがつきません。 もし、施設でスタッフが日常的に医療行為を行う状況があり、おかしいと感じた場合は上長に相談して改善してもらいましょう。それでも改善がみられなかい場合は、コンプライアンス室へお気軽にご一報ください。