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​熱中症対策−2

5.熱中症になったら

■熱中症の症状は?

 

本マニュアルでは、熱中症を『暑熱障害による症状の総称』として用いています。『暑熱環境にさらされた』という条件が明らかで、熱痙攣、熱失神、または熱疲労の症状があれば熱中症の疑いがあります。熱痙攣は全身痙攣ではなく『筋肉のこむらがり』、熱失神は『立ちくらみ』です。熱疲労は、全身の倦怠感や脱力、頭痛、吐き気、嘔吐、下痢などが見られる状態です。

また、熱中症の重症度を『具体的な治療の必要性』の観点から、Ⅰ度(現場での応急処置で対応できる軽症)、Ⅱ度(病院への搬送を必要とする中等症)、Ⅲ度(入院して集中治療の必要性のある重症)に分類しました(表2-1)。特に、「意識がない」などの脳症状の疑いがある場合は、すべてⅢ度(重症)に分類し、絶対に見逃さないようにすることが重要です。

熱中症を表2-1のように分類すると、①熱中症の重症度について、熱疲労などとむずかしい言葉によらずに理解を促すことができ、②重症化の予防と早期発見に役立つこと、③介護、運動、教育、労働の各関係者にも理解しやすいことが挙げられます。

つまりⅠ度の症状があれば、すぐに涼しい場所へ移り体を冷やすこと、水分を与えることが必要です。そして誰かがそばに付添って見守り、改善しない場合や悪化する場合には病院へ搬送します。

II 度で自分で水分・塩分を摂れないときや皿度の症状であればすぐに病院へ搬送します。

2001年と2002年に、松本市と東京都で行われた調査によれば、7月から8月にかけて人口10万人当たり9.5人、8.4人の熱中症患者が発生しました。また、猛暑になった2010年夏期の日本救急医学会に集められたデータについて調べてみると、約4割がⅠ度で、Ⅱ度が約3割で、Ⅲ度が約3割で、平年並であ った2006年夏期の調査よりも症状が重い症例が多く、中年以降ではⅢ度の割合が増加するので要注意です(図2-2)。

6.どんなとき熱中症を疑う?

 

非常に暑い環境下であって、表2-1に示す症状があれば熱中症をすぐに疑うことができます。しかし、このような典型例ばかりが熱中症ではありません。ます、熱中症の発生は 、梅雨の合間に突然気温が上昇した日や梅雨明けの蒸し暑い日など、身体が暑さに慣れていない時に起こりやすいということを念頭に置いておく必要があります。図2-3は2010年夏の例ですが、梅雨明け後の7月下旬から8月下旬まで、高温により多くの熱中症患者が発生しましたが、とくに7 月下旬の最初の熱波で、多くの重症患者が発生しました 。

熱中症の危険信号として、次の症状が生じている場合には積極的に重症の熱中症を疑うべきでしょう。

スポ一ツ時の熱中症の発生は若年層に多く、労働時では20歳代〜50歳代で多く、主に炎天下で発生しています(図2-4、図2-5)。

日常生活では、散歩中、自転車乗車中、バス停でのバス待ちなどの屋外で発症するほかに、室内での  家事、飲酒、店番などでも 発症しており、屋外より屋内での発症が多くなります。また、男性では10代〜70代の幅広い年齢層で発症していますが、女性では10代( スポ一ツ)と70〜80代(日常生活)で多くなります(図 2-6)。

7.熱中症かなと思ったら

熱中症を疑った時には、死に直面した緊急事態であることをまず認識しなければなりません。重症の場合は救急隊を呼ぶことはもとより、現場ですぐに身体を冷やし始めることが必要です。

 

①涼しい環境への避難

風通しの良い日陰や、できればクーラーが効いている室内などに避難させましょう。

② 脱衣と冷却

●衣服を脱がせて、身体から熱の放散を助けます。

●露出させた皮膚に水をかけて、うちわや扇風機などで扇ぐことにより体を冷やします。

●氷嚢などがあれば、それを頚部、腋窩部 ( 脇の下)、鼠径部 ( 大腿の付け根、股関節部) に当てて皮膚の直下を流れている血液を冷やすことも有効です。

●深部体温で40℃を超えると全身痙攣(全身をひきつける)、血液凝固障害(血液 が固まらない)などの症状も現れます。

●体温の冷却はできるだけ早く行う必要があります。重症者を救命できるかどうかは、いかに早く体温を下げることができるかにかかっています。

●救急隊を要請したとしても、救急隊の到着前から冷却を開始することが求められ ます。

③水分・塩分の補給

●冷たい水を与えます。

冷たい飲物は胃の表面で熱を奪います。大量の発汗があった場合には汗で奪われた塩分も適切に補える経口補水液やスポーツドリンクなどが最適です。食塩水(1㍑に1〜2gの食塩)も有効です。

●応答が明瞭で、意識がはっきりしているなら、水分の経口摂取は可能です。

●『呼び掛けや刺激に対する反応がおかしい』『応えない』意識障害がある時には誤って水分が気道に流れ込む可能性があります。また『吐き気を訴える』『吐く』という症状は、すでに胃腸の働きが鈍っている証拠です。これらの場合には、経口で水分を入れるのは禁物です。

④医療機関へ運ぶ

●自力で水分の摂取ができないときは、緊急で医療機関に搬送することが最優先の対処方法です。

​●実際に、救急搬送される熱中症の半数以上がⅢ度ないしⅡ度(図2-1)で、医療機関での輸液(静脈注射による水分の補給)や厳重な管理(血圧や尿量のモニタリングなど)が必要となっています。

8.医療機関に搬送するとき

⑴医療機関への情報提供

熱中症は急速に進行し重症化する病態です。熱中症の疑いのある人を医療機関に搬送する際には、到着時に熱中症を疑っての検査と治療が敏速に開始されるよう、その場に居合わせた最も状況のわかる人が医療機関まで付き添って発症の状態などを伝えるようにしましょう。

 

特に『暑い環境』で『今まで元気だった人』が突然『倒れた』といったような熱中症を強く疑わせる情報は、医療機関が熱中症の処置を即座に開始するために大事な情報ですので積極的に伝えましょう。

​情報が十分伝わらない場合、例えば意識障害のある患者として診断に手間取り、結果として熱中症に対する処置を迅速に行えなくなる恐れもあります。次頁に『医療機関が知りたいこと』を示しています。このような内容をあらかじめ整理して、医療機関へ使えると良いでしょう。

⑵病院での治療

病院では全身の冷却、脱水(循環血液量が不足している)に対する水分補給、電解質(ナトリウムや力リウムなど塩分)の異常に対する補正、酸塩基バランス(代謝の障害から体液は酸性に傾いている)の補正などが直ぐに開始されます。全身の冷却には以下の方法が用いられます。

 

①体表からの冷却方法

《氷枕・氷嚢》

氷枕や氷嚢を頚部、腋窟(腋の下)、鼠径部(大腿の付け根)に置まきす。この方法により 体表に近い太い血管内を流れている血液を冷やしま す。

《冷却マット》

冷水を通したブランケットを敷いたり掛けたりします。

《蒸泄法》

水を浸したガーゼを体に広く載せて、扇風機で送風します。アルコールを用いる場合もあります。

《ウォームエアスプレー法》

全身に微温湯または室温水を霧状の水滴として吹きつけ、扇風機で送風します。

 

②体の内部から冷却する方法

《胃管または膀脱カテーテルを用いる方法》

胃や膀脱に挿入した管を用いて、冷却水で胃壁ないし膀脱壁を流れている血液を冷やそうというものです。冷却した生理食塩水を入れては出すという操作を繰り返します。

《体外循環を用いる方法》

人工(血液)透析などは体外に血液を導き出して再び戻すという 方法です。この方法に準じて血液が体外に出ている間に物理的に血液を冷やしてそれを体内に戻すという方法です。

また、Ⅲ度の熱中症では人工呼阪器を用いた呼阪管理や腎不全(尿が出ない)に対する透析療法なども行われま す。ほとんどの場合、これらは集中治療室で行われます。

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