疥癬対応と処置
▼通常疥癬
▼角化型疥癬
1.疥癬について
疥癬はヒゼンダニ(疥癬虫)が皮膚の最外層である角質層に寄生し、人から人へ感染する疾患です。
非常に多数のダニの寄生(100万〜200万匹)が認められる角化型疥癬(痂皮型疥癬)と、少数寄生(数十匹程度)ですが激しい痒みを伴う普通の疥癬(通常疥癬)とがあります(表1)。
疥癬虫の雌(♀)は皮膚に取り付くと10〜40分で角質内に侵入し、表皮角層にトンネルを掘り、そこに1日2〜3個の卵を生み続け、4〜5週間で死滅します。
卵は3〜4日で孵化し、14〜17日で成虫となり、4〜5週間の寿命を終えるまで10〜25個の卵を産む。疥癬虫は人体を離れると短期間で死滅します。
通常疥癬は密なヒトとヒトの接触により感染するので、疥癬患者との直接接触や長期間寝起きをともにする場合、また疥癬虫や虫卵を内包している患者から落屑(ふけ)が飛散している部屋、病院、各種施設に出入りする医療従事者、介護者、掃除係や家族などを介して、あるいは落屑が付着している大型寝具、リネン類、医 療器具、介護用具などを介して感染するので注意が必要です。
疥癬虫が体表から離れた場合、25℃・湿度90%で3日間、25℃・湿度30%で2日間、12℃・高湿度で14日間生存可能。50℃では湿度に関係なく約10分間程度で死にます。
【通常疥癬】
主な皮膚の症状は疥癬トンネル、赤いぶつぶつ(丘疹、結節)などです。疥癬トンネルは手のひら、指の間や指の側面などによくみられます。丘疹はお腹や胸、足や腕にみられ、激しい痒みを伴います。男性の外陰部には数mmの結節(しこり)がみられます。
【角化型疥癬(ノルウェー疥癬)】
灰色から黄白色でざらざらと厚く蛎殻のように重積したあか(かさぶた、鱗屑、角質)が手や足、おしり、ひじ、ひざなどにみられます。また、その症状は爪にもみられることや症状が手のひらや足のみなど一部の部位に出る場合もあります。かゆみは人によって異なり、まったくかゆみのない場合もあります。
老齢、悪性腫瘍末期、重症感染症、栄養状態が悪いなど、免疫力が低下している方や、免疫抑制剤やステロイド剤を投与されている方に発生しやすくなります。
特徴的なのは下記の部位で、ダニが層をなして生息している場合があります。
①骨の突出した部位
②四肢の関節の外側
③圧迫や摩擦を受けやすい部位
■診断
皮疹をメスで削り取り、KOH法で検鏡。虫体・虫卵を検出すれば確定します。
皮膚の症状では、疥癬トンネルと男性の外陰部の結節(しこり)が特徴的です。ヒゼンダニを検出できれば診断は確定します。しかし、皮膚科専門医でもダニを見つけることは難しく、いろいろな身体部位をチェックし探し出すことになります(ヒエンダニの検出率は10〜60%)。
■予防
疥癬は完全な予防が非常に困難ですが、利用者様受け入れ時に、下記の内容を実施することで、大幅に施設持ち込みの確率を減少させることが可能です。
【受け入れ時の対応策】
①アセスメントシートにて、ご本人とご家族、関係者様から具体的に疥癬有無についてヒアリングを行い、その記録を残しましょう。
②新規利用者様は、身体確認時に前述の症状や特徴をチェックしましょう。
※指の腹、ひじ、お腹、背中、お尻を必ず確認。
③長期利用者様(週4回以上の継続的利用)の場合、身体確認時に疥癬の症状が少しでも見受けられるようであれば、通院を行い、陰性であることを確認してください。
※確認できるまでは利用不可、もしくは隔離利用とする。
■対処法
【通所(入居)の受け入れ時】
①入所のために来所されたすべての利用者様に対して、全身皮膚の観察を行いましょう。
※指の腹、ひじ、お腹、背中、おしりを必ず確認。
②ご本人、ご家族あるいは介護者にかゆみや発疹、発赤の有無を聴取してください。
③疥癬発症、または疥癬を疑われた場合は速やかに主治医に報告し、皮膚鏡検を行い疥癬虫または虫卵の有無の診断を受けましょう。
④発症の場合、すぐにコンプライアンス室・エリア長へ報告し指示を仰いでください。
■注意するポイント
●早期診断・早期治療でピンポン感染をさけることが重要です。
●治療が成功しても夜間の激しい痒みや一部の症状は2〜4 週間は続きます。
治療でダニが死滅しても、虫体・糞・卵などが2〜4 週間皮膚に残っている可能性があるため注意しましょう。
■予防と治療について
【疥癬の治療薬】
⑴飲み薬
イベルメクチン(製品名:ストロメクトール錠)があります。1〜2回の内服で有効であることが報告されています。
⑵塗り薬
フェノトリンローション(製品名:スミスリンローション5%)、イオウ剤、クロタミトンクリーム(製品名:オイラックスクリーム)、安息香酸ベンシルを使う際には、利用者様またはご家族の同意が必要です。
※フェノトリンローションとイオウ剤は保険適用薬。クロタミトンは保険適用になっていないが、使用時は保険が適用される。
⑶かゆみ止めの薬
かゆみに対しては、抗ヒスタミン薬の飲み薬を併用します。
オイラックスを連続7日間、入浴後身体を乾かし頚部から下全身に塗布してください。
飲み薬・塗り薬に関しては医師と連携し、適切・慎重な判断で行ないましょう。
【ご家族への説明】
⑴ご家族への説明で最も重要なことは、症状がなくても皮膚科医師の検診を受ける必要があることを理解いただくことです。
⑵一般家庭では厳密な感染対策は不要ですが、完治までの期間が長いため、「ご自宅では神経質になりすぎないよう、焦らずに経過をみましょう」などと説明し、理解を得ましょう。
【介護者の安全対策(重症疥癬の場合)】
重症の疥癬患者の介護をする際は、個室対応(ゴム/ナイロン)手袋、長袖の衣類(エプロンまたはガウン、使い捨てのもの可)、個室対応専用スリッパを使用します。
①使用した衣類(エプロンを含む)は、洗濯をし乾燥するだけで良いのですが、心配なら洗濯の前に熱湯(50℃以上)に10 分つけてください。
②介護者は爪を短く切っておきましょう。
③感染は皮膚から皮膚の接触感染なので、手袋・長袖・専用スリッパの着用で介護を行えば、手指の特別な洗浄の必要はありません。また適切な治療で24 時間後にはダニは感染力を失うので過剰に怖れることはありません。
【処置終了後】
①カーテン、床にダニアーススプレイ噴霧。
②退室時足元に駆虫スプレー噴霧。
③処置の際、看護師はγBHC軟膏を塗布してください。
④妊娠中の看護師はγBHC軟膏は避けましょう。
⑤勤務終了時は白衣、予防衣はロッカーに入れてはいけません。毎日交換し、洗濯してください。
⑥靴にも殺虫スプレーを噴霧します。
⑦事務所を含め、特に絨毯の部屋は離れていても、靴によって疥癬虫が運ばれる可能性あるため駆虫処置(バルサン・ダニアースなど)を行います。
⑧利用者様には私物をできるだけ少なくしてもらう。できる限り処分してください。
●モップ・雑巾は、70℃・10分間で消毒後乾燥。
●掃除はすぐ終わるなら素手でもかまいませんが、長時間・広範囲の場合はガウン着用が必要。
●床頭台・ドアノブ・処置台などはアルコールにて清拭。
●スミスリンパウダーをベッド周辺に撒布するのも一法。
●トイレ使用後のアルコール消毒・ふき取り。
【具体的対処法一覧】
①各室内・トイレ使用後、アルコールでの拭きあげを行います。
②布団類すべての熱湯消毒、乾燥機を使用し乾燥。
(近隣のコインランドリー使用)または廃棄し新調します。
③一ヶ所の部屋に布団を入れダニアース処置を行います。
④発生から1ヶ月間は布団の毎日天日干しを行います。
⑤感染した利用者様の通所利用中止を行い、医師より治癒証明をもらってからの利用再開についてご本人、ご家族、CMにご連絡し了承を得ます。
⑥長期の利用者様で疥癬にかかった場合、完治するまで個室対応とし、室内入室の際は室内専用スリッパを履き使い捨てエプロンを着用。また、重傷感染者に関しては手袋(ゴム・ナイロン)を着用しましょう。
⑦利用者様全員の身体チェックと接触のある方(職員を含む)すべてを検査し、治療薬・予防薬の内服や塗布薬対応を行って早期根絶を目指し対処する。
※疥癬だけでなく、感染症に関わるすべての疾病に対し『治癒証明』をもらってください。
⑧治癒証明書は病院側で用意していない場合があります。用紙が無い場合は会社で作成した『治癒照明書』を使用してください。
⑨基本的に通所許可証として治癒証明書を提出いただくので、診断書とは異なり一般的に費用は一切かかりません。
⑩事故報告マニュアルの1〜5類の感染症に関しては、必ず治癒証明をいただくまでは通所利用不可となる旨を全職員に周知徹底してください。
●治癒証明書は下記よりフォームをご使用ください。
Alrit→施設→マニュアル→施設配布マニュアル