褥瘡予防と処置
1.褥瘡とは?
褥瘡(じょくそう)とは、床ずれ、または褥瘡性潰瘍、圧迫潰瘍とも呼ばれ、圧迫により皮膚に血液が十分流れなくなり、その部分が損傷を受けた状態をいいます。
褥瘡は年齢に関係なく、寝たきりの人や車いすが手放せない人、自分では体の向きや位置を変えられない人ならだれにでもできます。この病気は高齢者に比較的多くみられます。骨が突き出ていて皮膚への圧迫が集中しやすい部分、たとえば腰、お尻、かかと、足首、ひじなどは褥瘡ができやすい場所です。また、ベッド、車いす、ギプス、添え木などの硬い物体から皮膚に圧迫が加わる部位にも生じます。褥瘡は治療をしなかったり、原因となっている病気のために治癒が妨げられている場合には生命に関わることがあります。
2.褥瘡の進行
褥瘡は、ほとんどの場合いくらかの痛みとかゆみを伴います。しかし、感覚が鈍くなっている人では、褥瘡がひどくなっても痛みを感じない場合があります。
褥瘡は、損傷の重度に応じて4段階に分類されます。
⑴ステージⅠ:赤くなり、炎症が生じる
⑵ステージⅡ:皮膚の浅い部分が失われ、表皮剥離、水疱または、その両方が生じる
⑶ステージⅢ:皮膚の全層が失われ、脂肪層まで達する
⑷ステージIV:皮膚の全層が失われ、下にある筋肉、腱、骨が露出する
褥瘡は必ずしも軽度の段階から重度の段階へと進んでいくわけではありません。徴候に初めて気づいたときにすでに後期の褥瘡となっているケースもあります。
3.初期段階の見極め
褥瘡予防の第一歩は毎日の皮膚観察です。まず、皮膚に赤み(特に寝具と多く接触する部位)を発見したら、その部分が圧迫されないように身体の向きを変えてみます。30分後、皮膚の赤みが消えていれば褥瘡ではありません。赤みが消えない場合は褥瘡の可能性がありますので、自己判断せず医師に相談しましょう。
【観察ポイント】
褥瘡ができやすいところは、骨が突き出していて、ベットのマットや布団、車椅子などで圧迫されていることろですので、おむつ交換、着替え、入浴のときなどに褥瘡ができやすい部分を重点的に観察しましょう。
⑴仰向けの場合
おしりの中央にある骨が突出している部分(仙骨部<せんこつぶ>)に最もできやすく、後頭部、肩甲骨部<けんこうこつぶ>、かかとなどにもできます。
⑵横向きに寝ている場合
耳、肩、ひじ、腰骨が突出している部分(腸骨部<ちょうこつぶ>)、太ももの骨が出ている部分(大転子部<だいてんしぶ>)、ひざ、くるぶしなどにできます。
⑶うつぶせの場合
耳、肩、ひざ、つまさきなどにできます。また、女性の場合は乳房、男性の場合は性器にもできます。
⑷車椅子に座っている場合
おしりの骨(坐骨部<ざこつぶ>)、尾骨部(びこつぶ)、背部、ひじなどにできます。
体位変換
⑵−①30かかとを浮かせた状態
⑶−①30度側臥位<そくがい>:30度にかたむけて保持した状態
⑶−②横向きに寝ている状態から30度側臥位<そくがい>への体位変換
⑷−①背上げの状態
⑷−②背上げの方法
背上げをする場合は、ひざを曲げてから上半身を起こします。
写真左:上から引っ張る場合、写真右:下から押し上げる場合
⑷−③背抜きの方法
⑸−①手前のひざを曲げておしりの下に手を入れます。
⑸−②おしりを手前に引きます。
⑸−③右足、左足をそれぞれ持ち上げながら、手前に移動させます。
⑸−④肩に手を入れます。
⑸−⑤肩を手前に引きます。
⑸−⑥左側に倒すので左手を少し外側に開いておきます。
⑸−⑦左足を曲げます。
⑸−⑧腰をまわすと肩がついてきます。さらに肩に添えて横にします。
⑸−⑨腰を持ち上げ位置を調整します。
⑸−⑩枕の位置をなおします。
⑸−⑪が開きすぎているときはなおしてださい。
4.褥瘡予防
褥瘡予防には圧迫分散ケアをすることが大切です。体圧分散ケアとは、ベッドのマットや布団、車椅子などから身体の表面に加わる圧力を分散させて、身体の一部分に集中して加わる圧力をできるだけ小さくするためのケアです。体圧を分散させるケアには、身体の向きや姿勢を変える体位変換や、身体の形にフィットするマットレスなどの体圧分散用具を使うケアなどがあります。栄養が不足すると褥瘡になりやすくなるため、栄養管理を行うことも大切です。
【体位変換】
⑴横になっているときのケア
同じ体位(姿勢)が続かないように、仰向け、横向きが交互になるように、体位交換は2時間ごとに身体の向きを変えましょう。
夜間の体位変換は、介護者の就寝前、起床時などに合わせて行うと負担を軽減します。
⑵かかとの圧力を減らすケア
かかとの褥瘡を予防するために、ひざから足首の部分にクッションなどをあててかかとを浮かせます。かかと部分に円坐(ドーナツ型クッション)を使用すると、皮膚にあたる部分に圧力が加わり、かかと部分の血流が悪くなるため、円坐の使用は避けましよう。
⑶体圧を分散させる体位(姿勢)
横向きに寝ている場合は、写真(30度側臥位<そくがい>)のようにするとおしりの中央にある骨が突出している部分(仙骨部<せんこつぶ>)、太ももの骨が突出している部分(大転子部<だいてんしぶ>)の褥瘡を予防できます。
この体位(姿勢)はおしりの筋肉で体を支え、ベッドのマットや布団とあたる面積を広くし、かかる力を分散できます。
⑷背上げを行うときのケア
上半身を起こす角度を30度以下にすることにより、身体がずり落ちたときに生じる皮膚のずれやおしりの部分にかかる力を小さくすることができます。
寝巻きやシーツの小さなしわでも皮膚を圧迫するため、皮膚が弱くなっていると、褥瘡の原因となることがあります。背上げを行った後は身体を浮かせ、背中の皮膚にかかる力を除き(背抜き)、寝巻きやシーツのしわをそっと伸ばしましょう。シーツは引っ張りすぎると、かえって圧迫をまねくので注意しましょう。
⑸仰向けに寝ている状態から横向きに寝ている状態への体位変換
【体位変換のワンポイントアドバイス】
1人で介助すると、利用者様を引きずってしまうことがあるため、皮膚に摩擦やずれが起きやすくなります。また、利用者様の転落・骨折の危険性もあるため、可能であれば2人で介助しましょう。1人で行う場合は、無理をせず部分的に少しずつ移動させるようにします。
引きずりによる皮膚への負担を少なくするためには、あらかじめ滑りやすいシートを身体の下に敷いておくとよいでしょう。
⑹座っているときのケア
太ももの裏側の広い面積で支えられるよう、股関節<こかんせつ>、膝関節<ひざかんせつ>、足関節ができるだけ90度になるように座りましょう(90度ルール)。
自分で姿勢を保つことが難しい場合は、圧力を減らす機能や姿勢を保つ機能のあるクッションを使用しましょう。
円坐(ドーナツ型クッション)は姿勢が不安定になり、また円坐が皮膚にあたる部分に圧力が加わり血流が悪くなるため、使用は避けましょう
【体圧分散ケア】
自分で身体を動かすことができる場合は、15分ごとに腕で身体を持ち上げる、または机などに前のめりになり、おしりを浮かせる姿勢をとって座りなおすと褥瘡予防に効果があります。
【体圧分散用具の使用】
体圧分散用具とは、体の形に合うように体が沈みこむマットレスのことです。マットレスと体の接触面積を広くすることで、体にかかる圧力を分散することができます。
体圧分散用具には、素材・機能・使用方法などさまざまなものがあります。用具が利用者様に合っていないと、逆に褥瘡を発生させてしまう場合があるので、医師・看護師・ケアマネジャーなどと相談して、利用者様の状態に合ったものを選びましょう。
悪い例(90度以下)
悪い例(90度以上)
【栄養管理の必要性】
栄養が不足すると褥瘡になりやすく、また治りにくくなります。
特にお年寄りは味覚の低下や摂食障害、食べ物をうまく飲み込めないなどの原因とよって、栄養不足になりやすくなっています。栄養不足は気がつきにくいため、身体の状態を定期的に確認して、適切に栄養管理を行うことが大切です。
以下の状態に注意しましょう。
●食事摂取量や水分摂取量
水分は一日に体重1キロあたり25ml、エネルギーは体重1kgあたり25〜30Kcal。
●栄養素と必要栄養量
たんぱく質、ビタミン、ミネラルの補給。※次ページ表参照
食事だけでは栄養が不足する場合は、たんぱく質の多い乳製品やプリン・ゼリーなど糖分(エネルギー源)の多い食品、すなわち高たんぱく質・高エネルギーの栄養補助食品などを活用しましょう。
●皮膚の張りやたるみの状態
●やせの状態(骨の突出具合)
●むくみの状態
●排泄(排尿・排便)の状態
●睡眠の状態
●吐き気や嘔吐<おうと>などの気分不良の状態
栄養管理の方法には、必要栄養量の確認や栄養を摂るための具体的な工夫をしてください。また、自分の力で食べられるようにグリップを握りやすくしたスプーンやフォークを使用するなどして工夫しましょう。
5.褥瘡の処置
■褥瘡の治療とは?
褥瘡の治療では、薬剤などによる治療に加え、圧迫、ずれ、あるいは全身状態や栄養状態の悪化など、褥瘡が発生した原因を取り除くケアをすることが大切です。
急性期褥瘡の治療
急性期の治療では、きず傷を保護し、適度な湿り気を保つことが大切です。
⑴褥瘡を保護するドレッシング材(被覆材)による治療
ドレッシング材を傷に貼ることにより、傷を保護し、適度な湿り気を保つことができます。急性期は傷を毎日観察する必要があるため、はがしやすく透明なドレッシング材を使用します。
⑵ケアスタッフができる褥瘡処置(医行為除外)
×:消毒
×:軟膏塗布
×:特定医療材料の交換(ドレッシング材、ハイドロサイト 、デュオアクティブなど)
○:創の周囲の水洗い
○:汚物で汚れたガーゼの交換
○:モイスキンパッド(衛生材料・ガーゼ類)の交換
○:ラップ・穴あきラップ・おむつの交換(ガーゼ類)
※医師の指示と利用者様・ご家族の同意によるケアをしましょう。